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 News Letter

実大免震試験機 E-Isolation から年初のご挨拶 (2024.1.1PDF

JSIL:免震研究推進機構 ご関係の皆様

 2024年新年のご挨拶を申し上げます。
免震研究推進機構よりご関係の皆様へ年初のご挨拶を申し上げます。
 建築、土木構造物の防災・減災に携わる研究者、実務者にとって長年の悲願であった免震部材・制振部材の実大動的試験機が、2023年3月、兵庫県三木市に完成しました。
 免震研究推進機構では、引き続き国家レジリエンスに末永く貢献できるよう、地震によって人々の安全・安心が損なわれたり、社会活動が継続できなくなったりすることのないよう努力を続ける所存です。

広報部会発足のお知らせ
免震・制振に関する最新情報をご関係の皆様へタイムリーに発信するために、2023年11月より以下のメンバーで広報部会を発足しました。
谷口耕一(日建設計)、羽田和樹(日本設計)、小林佑輔(スターツCAM)
石塚広一(構造計画研究所)、後藤尚哉(同左)、鴨下直登(竹中工務店)
須賀貴之(清水建設)、芋野匡俊(大林組)、島田侑(鹿島建設)
野口裕介(大成建設)、増野泰介(同左)、照井翔太(SWCC)
田中剛(オイレス工業)、谷佑馬(ブリヂストン)山口慎吾(日鉄エンジニアリング)
四半期に一度発行予定のニュースレターに併せて、JSILが主催するシンポジウム、免震構造・制振構造・試験機見学会の情報などを随時お知らせいたします。
広報部会のメンバーはいずれも平素は耐震工学を生業にしており、広報活動に際しては不慣れな点があるかと存じますが、JSILの活動によって得られた知見の正確な情報発信を心掛け、安全・安心な社会づくりに微力ながら貢献してまいります。今後ともよろしくお願いいたします。 野口 裕介

年初のご挨拶
一般財団法人免震研究推進機構代表理事 和田 章

令和六年元日に能登半島で大地震が起きました。この地域では4年ほど群発地震が続いていましたから、地殻の歪みは解放されていたと思っていましたが、自然現象にこのような安易な考えは通用しません。阪神地震と同じように浅い地震でしたから揺れも大きく、多くの被害があり、道路などのインフラストラクチャ、電気と水道、通信などのライフライン、建築などの耐震性も不十分であることがわかり、大火災も起き、人々に大きな不安を与えています。大津波の被害もありましたが、東日本大震災の経験により避難が徹底し、人的被害は軽減されたように思います。

日本免震構造協会の可児長英らが長年にわたり集めている免震建築に関する統計情報をもとに、高山峯夫、森田慶子が、富山県、石川県、新潟県には免震建築が多くあることを調べました。能登地震の大きな地震動を受けたこれらの免震建築に関する調査が行われると思いますが、免震建築が損傷を受けないだけでなく、その機能の維持が思い通りに満たされている成果を期待しています。

日本免震構造協会の生みの親、東京建築研究所の山口昭一は、1985年のメキシコ地震の被害調査に日本建築構造技術者協会の一員として行かれました。帰国後、① メキシコの小学校では地震が起きたら即座に外に飛び出すように教育している。② 日本では机の下に隠れるように子供達を指導している。両国とも建築の耐震性が信頼されていない、建築は基本的に雨露を防ぎ、常に中の人々を快適に守るためにあるのに、残念なことだと言われていました。これは今でも変わっていません。能登半島の地震でも、住宅の室内にいる家族が慌ててテレビを押えたり、ガラス窓に近づくな、などと叫んでいる様子がテレビで放映されました。住宅だけでなく事務所ビル、病院などの内部の揺れと被害は大きかったのではないかと思います。建物の中が地震時に「安全ではない」、「安心できるところではない」、結果として「多くの人々が体育館などに避難しなければならない」という現状を目の当たりにすると、我々は耐震構造の研究を進め、丁寧に設計しきちんと施工してきたはずなのに、「これまで何をしていたのだ」といたたまれない気持ちになります。

地震時の建物内部の応答が0.2G程度なら室内はもう少し穏やかなはずです。しかし、実際には2Gを超えることもあります。1981年の新耐震設計法以降、我々は1G相当の最大応答層剪断力係数を考慮して耐震設計を行なっています。ただし、このときは構造体の損傷を許容し、靱性のある構造体では構造特性係数Dsにより、1Gを0.25Gから0.30Gまで小さくしても良いことにしています。40年以上の年月が過ぎましたが、この設計法は、法律制定の本来の趣旨とは関係なく、鋼構造のDs=0.25、鉄筋コンクリート構造のDs=0.30が標準と考えられ、靱性のない耐震壁や筋違を多く設置すると、そのペナルティとしてDsを0.50、0.55まで大きくしなくてはならない方法のように思われています。杭を含めた基礎構造の耐震設計を真面目に考えると、上部構造に大きなDsを用いると基礎構造まで強くしなくてはならず、強い建物を作ることは不合理なように見えてしまいます。この結果、大地震時に大きな損傷を許容するDsの小さな建築が推奨されてきたように思います。靱性に期待した純ラーメン構造はパソコンの構造計算にのりやすいこともあり、計算がややこしくなる耐震壁や筋違の設置が嫌われてきたこともあります。ただし、層毎に異なるDsを設定できる、偏心率は弾性剛性によって求めている、などにより、特定層破壊や建物の捩れ破壊などが起きないとは言えません。

同じ40年の間に普及してきた免震構造は、上部構造の1階に考えるべき層剪断力係数は、極めて稀に起こるとされる地震動(二次設計)の場合でも0.15以下になると思います。基礎固定の建築で、稀に起こるとされる地震動(一次設計)の設計の場合で使われている一階の剪断力係数は0.2ですから、0.15はこれより小さく、上部構造はこの層剪断力に対して許容応力度設計を容易にすることができ、上部構造の設計の自由度が大きく広がります。靱性確保のための補強筋は軽減され、塑性変形時の局部座屈防止のために鋼材の幅厚さ比の制限も緩くできます。

大地震時の室内の加速度と速度が小さくなりゆっくり揺れること、建築構造が塑性変形を起こさず、地震後に建物の機能が維持されることが重要なことですが、これらの利点は数百年に一度の大地震を受けたときに発揮されることです。一般の人や建築主にこの特徴を説明しても、生きているうち、または建物の寿命の間に、この利点を享受できる可能性は少なく、聞き手の心は動き難いのだと思います。関東大震災から100年を受けて、日本建築学会では「日本の建築・まち地域の新常識」の議論が行われていますが、川口健一、竹内徹らが、上記の重要事項を超える免震構造・制振構造の利点について主張しています。

 また、建築構造だけでなく、都市内・都市間を結ぶ交通ネットワークが地震後も緊急輸送路としての機能を発揮することが都市のレジリエンスを高めるためにも重要です。土木構造、特に橋梁構造への免震・制振構造の採用は耐震性を高める有効な手段であるとともに、多径間化によりジョイント部が減り、常時の走行性向上や維持管理性を高めることが可能となります。 これらの利点は、次に箇条書きで示しますが、免震構造・制振構造には、設計の段階、施工の段階、竣工の次の日から発揮される大きな特徴が多くあることを理解し、上手に設計すれば免震構造の施工費は高くならないことも含めて、一般の人々、建主などに免震構造・制振構造を採用していただくように分かりやすく説明していただきたいと思います。

 <免震建築の設計・施工そして竣工直後に得られる多様な利点>
① 意匠設計、構造設計、設備設計に際し、地震の少ない国のような自由な設計が可能になる。
② 建物内部に激しい揺れが起きないため、快適で美しい建築空間の設計が可能になる。
③ 免震構造は内部の揺れだけでなく層間変形角が小さいため、天井、設備配管、間仕切り壁、サッシュ、ガラスなどの設計が自由になり、美しい意匠が可能になる。
④ 集合住宅、病院や行政施設、計算センター、美術館、事務所、工場、大型倉庫など、大地震直後に機能を維持しなければならない建築の構築が可能になる。
⑤ 免震構造の大地震動時の設計層剪断力は、基礎固定の構造の中小地震動時(一次設計)の値より小さいため、1981年までに使われていた許容応力度設計法が使えるだけでなく、新耐震設計法の二次設計(保有水平耐力)は不要になり、骨組の増分応力解析も不要になる。
⑥ 設計用層剪断力が小さく弾性設計が可能なため、柱本数を減らすことができ、柱・梁の断面を小さくすることもできる。
⑦ 耐震壁や筋違を活用して、層の剛性と耐力を外郭または中央のコアーなどで集中的に確保し、その他の部分の柱や骨組を軽快にすることができる。
⑧ 多層建築の場合、層毎に異なる構造形式を用いることができる。自由なプラン、自由な階の組み合わせにより、建築計画の可能性が広がる。下層にRCや鉄骨造、上層に木質構造などの組み合わせも容易である。
⑨ 特に木質構造を用いた環境配慮型建築は多くの耐震壁が必要になるが、免震構造と組み合わせれば、このような耐震壁を減らすことができる。
⑩ 免震層の免震部材群の力学的特性と配置に偏心がなく、上部構造が低層で免震層直上を固定としたときの一次固有周期が、免震周期に比べて十分短ければ、上部構造に偏心がある場合でも、弾性的な捩れ変形を考慮すれば良い。
⑪ 鉄筋コンクリート構造で求められる靱性保証のための過剰な剪断補強筋などが不要になり、コスト軽減と施工性向上が図られる。鋼構造で求められる鋼部材の幅厚比制限が緩和でき、接合部は存在応力で設計できるので保有耐力設計は不要になり、鋼材量の軽減だけでなく施工性の向上が図られる。
⑫ 地震力が小さいので、プレキャストコンクリート構造などの工業化工法の採用が容易となり、これからの熟練技能者不足問題解決への対策となる。
⑬ 欧米の建築で使われているレンガやガラスなどを構造材料に用いることができる
⑭ 免震住宅は地震保険の50%までの割引ができ、居住者に経済的メリットがある。
⑮ 専門的になるが、免震構造は地震リスクをお金に換算したPML値(probability of maximum loss)を劇的に減少できるため、投資の観点からも効果がある。

E-Isolation 実大免震試験機が2023年3月に兵庫県三木市のE-Defense の南の隣地に完成しました。基本的な性能確認ののち2023年末まで、具体的に吉敷祥一研究室を中心にして、天然ゴム系積層ゴム、高減衰ゴム系積層ゴム、鉛プラグ入り積層ゴム、球面滑り支承、弾性滑り支承、オイルダンパーなどの実大動的試験を行い、三菱重工機械システムの技術の方々に、試験機の性能を高めていただきました。高橋良和研究室によるリアルタイム・ハイブリッド・シミュレーションも成功しています。この1月からは、建設中の免震病院に使われる免震部材の試験、橋梁用免震支承の試験など、多くの試験依頼が来ています。 

何より重要なことは、免震構造や制振構造に使われる各種の部材が大地震を受ける時の真の性能を、試験機を用いて確認できることにあります。これによって、免震構造・制振構造の利点を大きな声で社会に主張することができます。

 令和六年の新年が明けました、皆様にはE-Isolation を盛んに使っていただき、安全で安心して暮らせる社会の構築に力を入れていただきたいと思います。


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